01 -ReD and BluE-



お城のバラ園は全体が赤い。此処の女王陛下が、赤をお好きだからだ。
服も赤い、唇も赤い。陛下に良く似合っていて、綺麗である。
そして、その部下も勿論赤い。宰相を務めている白兎のペーター様は赤チェックの服を着こなしている。二人が並ぶだけでも目に痛い、というのが正直な感想である。
それに、もう二人。一人は、部下ではないけれど陛下に執権の座をほとんど奪われてしまった王様。赤い冠に、全身赤の服。これで三人。そして、後もう一人は・・・。

「エース様」
「ん?」

ハートの騎士でこの城の軍事責任者であるエース様。私の実の兄でもある人。私は役なしで顔なしのカード。けれども私の兄のエース様は役持ちで顔付きのカード。
兄弟じゃ、ない。
私の心の時計は痛まない。けれども僅かに、ぎしぎしと言っている気がする。螺子が緩んでいるのか、それは定かではないけれど。
えっとさぁ、エース様が話かけてくる。

「俺、今旅の途中なんだけど」

そうだ、すっかり忘れていた。女王様よりエース様への言伝を預かっていたのだった。

「すみません。女王陛下より命を授かっておりまして・・」

次の夕方に謁見室まで来るように、とのことです。私が慌ててそう言うと、エース様は頭を掻いて、ちぇーっと言う。

「次の夕方、って行っても次またいつ来るか分かんないからなぁ・・」

うーん、と唸っている。
私は、どうしたら良いのだろう。役なしで顔なしの私は、どうしたら良いのだろう。役なしの私の頭からは良いアイディアなんて思いつかない。
私は、黙っていることしか出来ない。
ここから去ることも、恐ろしい。怖い。自分の兄であったはずのエース様が怖い。

と、私の前を、水色が過ぎった。真っ赤なバラ園の中に水色?何故だろう、と思っているとその水色はもう一度私の目の前に現れる。
水色は・・・、こっちへ向かってくる人のスカートだった。フリルのついたエプロンドレスを身に着けた、人。顔がある。

「エース!」

その人はエース様の名前を呼んで、近くに駆けよって来た。エース様もその人に気づいたらしく、

「あ、アリス」

アリス、さん。否、アリス様、だ。エース様のお知り合い。顔も見えているし、少なくとも私とは違う。

「エース・・・、あなた、また迷子なの?」
「いや、迷子じゃなくて旅の途中だ。自分の部屋に着くまでの旅」
「・・・・はぁ」

アリス様とエース様は仲が良いらしい。二人とも楽しそうに笑っている。
と、ふと突然アリス様が私に目を向けてきた。綺麗な瞳、綺麗な髪、きらきらしているみたいだ。

「この子は?」
「ん?」

アリス様はエース様に尋ねている。私のことだろう、と思う。アリス様は何故私のことなんて聞くのだろう。
可笑しい人だ。
エース様は少しためらってから、でも淡々と言った。

「えっと・・俺の妹。で、ただの役なし」

ちょっと嬉しかった。“妹”という響きが心地よかった。最後にそう言われたのはいつだろう。エース様が、役持ちになったとき以来だろうか。
でも、エース様の言った“役なし”というのは紛れもない事実。
私はただの役なしで、役持ちのエース様とは違う。
本当のことだ。何も言えない。

「あなたの、妹なの?」
「あぁ。名前も顔もないけどね」

エース様はにっこりと笑う。
ぐさり。
私の時計は正常なままなのに、螺子がぎぃぎぃと歪な音を立てたみたいに。チクタク、チクタク。けれども、時計は正常なまま。胸の時計を服の上から感じていると、アリス様が私に近づいてきて、

「初めまして」

笑って言われてしまった。

「私、アリス=リデル。よろしくね」

よろしく、と言われてしまった。
何故、どうして?アリス様は私に声などかけるのだろう。私はただの役なし。顔なし。代わりの幾らでもいるカード。そう。そうなのだ。そう思っていると、エース様は「えー」と不平の声を上げた。

「役なしに挨拶なんてしたって、何も変わらないのに・・・」
「あら、貴方の妹なんでしょう?それに、役なし、って言い方はよくないわ」

ふふっと、笑う、アリス様。どうして、

「よろしくね」

・・もう一度。


 ReD and BluE
(Red Rose and Blue Girl)