03 -SisteR and SisteR-



兄さんが“エース様”になったのはいつの事だったか。それをハッキリとは覚えていない。“兄さん”が“エース様”になって、それから、

「兄、さん」

今ではもう呼ぶこともなくなった言葉。
風に乗せてしまえば、見えないそれは遥か遠くまで行ってしまうような気がした。

私は今、アリスさんとハートの城のバラ園に来ている。女王陛下のお好きな赤薔薇を見て、微笑む、アリスさん。アリスさんはそもそもどうしてこの世界に来れたのか。私は知らない。アリスさんが来ていたことも、最近までは知らなかったのだ。

「・・・・?」

私ははっとした。そうだ、すっかり考えることに更けてしまった。ぼっとしていました。

「すみません、アリス様」
、」

はぁ、とアリス様はため息をつかれる。疲れたのだろうか。
滞在地でも色々とお仕事をしているらしいし。

「そのアリス様、っていうの」

アリス様は、もう一度深くため息をつく。

「え、ですが私は役なしの顔なしですし、アリス様は余所者、」
「アリス、って呼んで」

アリス様はご立腹のようだ。むすっと、まるで子供のように。怒られてもいい、私にそんなことはできるわけ、ない。

「アリス様・・!」
「アリス」

アリス、なんて呼び捨て出来るわけ無いじゃないか!けれど、アリス様は執拗に、呼び捨てを強要する。

「アリ、ス・・・様」
「アリス」
「アリス、さん」
「・・・・はぁ」

様、は取った、そのかわりにさん付け。

「・・・これ以上は無理です・・!」

もう本当に限界だ。
そんな、私よりも年上に見えるアリス様・・・、アリスさん、を呼び捨てなんて。
恐れ多いと思う。アリスさんはため息をもう一度、つく。今日で三度目だ。

「・・・もうそれでいいわ」

諦めてくれたようだ。少し、ほっとする。
けれども、アリスさんはどうして、こんなに私のことを大事にしてくれるのだろう?
こんな役なしの、私を。

「で、
「あ、はい」

私の名前を、アリスさんのくれた名前を呼ばれる。“”という名前。アリスさんがくれたからか、かなり気に入っている。

「何を考えていたの?」

ずばり、と聞いてくる。直球だ。
そんな、“兄さん”のこと、だなんて、エース様に悪いような気もするし、言えない。私は、黙って時間が過ぎるのを待つしかない。せめて、話題がずれてくれる、とか。

「エースの、こと?」

アリスさん。そこまで貴方は見破っていたというのか。少し、驚く。図星だったから。
私は首を縦に振る。それから、ゆっくりと唇を舐め、呟くようにして言う。まるで、自問自答するかのように、自分に確かめるように、ゆっくり。

「兄さん、は、役持ちです。“エース様”、なんです。
昔は、兄さんも役なしだったんです。それが、役持ちに、なった。
急に、私は役なしのままなのに、」

語尾が小さくなっていく。あぁ、涙が出てきそうだ。泣き虫の私め。

「・・・、」

そう呟くとアリスさんが、私の頭を撫でて。それから、ぎゅっと、抱きしめる。暖かい、腕。心地よい、心臓の音。トクン、トクン。規則正しい、あったかい音。安心する。

「・・・アリス、さん」
、」

アリスさんは、何かを言いかけて、やめた。
ただ「少しだけ、分かるわ」と、泣き顔にも近い顔をして。
切ない、哀しい顔。

「・・・・ありがとう、ございます」

だから、どうかお願い。泣かないで。


SisteR and
SisteR
(Sister and His Sister)