コツリコツリと真っ白な城に響く足音は、静かに闇に吸われる。窓から覗く月が白く柔らかな光を城へと落とす。
「ウルキオラー」
声もまた、城に響き、吸われた。自分を包む白い服が揺れ、空気が音に変わる。その音もコツリコツリと響く音と共に闇へと消えた。

「ウルキオラってばー」

先ほどよりも大きな声を出せば、山彦のようになって自分に返ってくる。それ程に広いのだ、この虚夜宮ラス・ノーチェスは。

「・・・なんだ」

闇から声がした。はっきりとした声は闇にも恐れられたのか。そこにまだ存在を残していた。

「ウルキオラ!」

が声の主に向かって走ると、ウルキオラの少し手前でジャンプする。そして抱きついてギューっと思い切り抱きしめる。それを無表情で受け止めるウルキオラ。

・・。お前、藍染様のお咎めを受けたいのか」
「えぇっ?!それはヤだな!」

笑って言っているからか、寧ろお咎めを喜んで受けるのでは。ウルキオラは少しだけそう考えたがそんな愚かな考えは捨てて、まだ抱きついたままのを剥がす。
「ぶーっ」膨れっ面で反抗してくるのはいつものこと。ウルキオラは流し目で彼女を見ると、ふい、とまた視線を外した。そのまま、一つだけ呟く。「言いたいことがあるなら早くしろ」
俺は気が短いんだ、とも。

素っ気無いけれども、ちゃんと優しさのある彼の言葉にリアは笑みを漏らした。先程のような幼稚な笑い方でもなければ、売女のような媚びた笑いでもない。
人の女のような顔をして笑っていたのだ。


「ねぇ、ウルキオラ」

は彼を呼んだ。「なんだ」
「好き」
そのたった二文字の言葉さえも、全てこの孤城に吸われ―――、静かに消えた。
優しい静寂。暫くして、ウルキオラの方が薄い唇を開いた。

「何故だ?」閑かに、
「俺たちには心がないはずだ」

は彼の胸に空く、真っ黒い空洞をじっと見た。そこには何も通っていない。ただ闇だけがある。彼女はくすっと、彼を笑った。

「もうとっくに失くしてしまったから?」
「なのに何故、お前はそう思う?」

は一つ嘆息するとまた笑った。嫌な笑い方ではない。ただ、ウルキオラが気に入るような笑みでもないのだ。
今日の月の光は不思議な程に白い。やわらかく差し込んで、に降る。
それは天使が、この暗澹とした場所に降りてきたような錯覚を起こさせた。

「そもそも、私は破面って心を失くしてないと思うのよ」

そう言いながら彼のその真っ黒い穴を、壊れ物に触れるような手つきで触る。穴を、指がすり抜けてしまわないように気を使いながら、ゆっくり撫でる。

「貴方が藍染様に絶対の忠誠を誓ったように。それと同じように」

そっと、穴に触れていた指が離れる。そして彼女の背に両腕とも回されて、それからくるりと彼の前で回って見せた。
ウルキオラとの距離が、遠くなる。と同時に月の光が冷たい床を照らす。
は彼の方に向き直ると、

「私が、そう思っていたいだけなのかもしれないけどね」

それだけ言って、目を細めて笑った。照れたように、白い頬を桃色にさせて。


「好きよ、ウルキオラ」

子供のような無知な姿を晒して、にこやかに笑む。



「―――そうか」