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知っていますよ。知った上で言うんです。彼の気持ちなんて手に入るものじゃない。大きいものだ、ってこと。――手に入れる、入れないの問題じゃないってこと。 「冬獅朗、」 私と会ったときと全く変わっていない、髪、瞳・・・、身長。冬獅朗の目をじっと見ると自分はいつかそれに呑まれてしまうのではないかと思ってしまう。恐ろしい深海。未知なるものがたくさんある、まるで。 「なんだ」 隊長になってもこうして対等でいてくれているあなたは優しい。だからこそ、愛しいと思うのかもしれない。有難う。・・・・、なんてこんな台詞は死ぬ間際に一言言うだけで良い。その言葉は口に出すことなく、喉の奥ですっと体に馴染んだ。 「あいしてる」 *** 最初に話したのはいつだっけ。彼がなんか無駄に一人悲しい顔をしている時だっけ。それとも桜の舞い散る学園の裏庭だったっけ。 どちらにしろ、はっきりしてはいない。後に日番谷本人に聞いてみたけど「んなんどうでもいいだろ。それより仕事しろ」 ――つまりは彼も覚えていないのだ。仕事なんかで誤魔化しちゃって。日番谷は全体的に見ても私より遥かに出来る人だけど、こういうところだけまだ成長していないんだね。・・・って。 「・・・何か言ったか、?」 あら、地獄耳。くすりと笑って、「そのまんまの意味だよー」彼は面白い。弄ればその度に反応を返してくれる――・・・・、くれ、た、だ。また子供だった頃は引っかかって、面白可笑しく反応していたのに。それから頭を撫でて、銀髪の柔らかさを感じて・・・。 「懐かしいね、日番谷」 「何がだ」 まだ霊力とか、そういうの学んでいる頃の私たちが。それを見てくれた先生がたの目。厳しかったけれど今では良い思い出になった。日番谷の寮にひっそりと忍び込んでちょっとだけ改造を施したこと。後になってばれて、すごい叱られた。あー、五月蝿かったな、日番谷。あの頃からもう小さかったな、日番谷・・・・、ううん、冬獅朗は。 冬獅朗、冬獅朗。日番谷の名前。ずっと傍にいた私の口癖。 こうして死神になって、まず五番隊に配属されたけどすぐに十番隊に飛ばされた。その頃にはもう冬獅朗は隊長になっていた。どれだけ差があったんだろうね、私たち。 日番谷隊長、って私が初めて呼んだときに冬獅朗は笑った。「前のままで良い」って言った。でもそれをしなかった私。「日番谷」って、呼んでしまった私。口調は変わらないけど、呼び方が変わった。 「ねぇ、日番谷!」 ああ、なんて意地っ張りなの、私! *** 思えばどうしてそんなに意地張ったんだろう?考えて、考えて、―――ああ。納得した。 私、日番谷との差が欲しかったんだ。 隊長と呼んだときの何処か嬉しい感情。遠くに行ってしまった彼。まだ変わらない自分。彼は隊長、っていう立派な存在になって、なのに私は子供の頃と変わらないまま。苛めても返事を返してくれなくなった、冬獅朗。彼は反応もしないのに、面白くもないのにそれを続ける私。 まだ、コドモなんだ。 それを比較したくなくて、日番谷は赤の他人なんだって。いくら傍に居たからって私と日番谷は赤の他人なんだって―――。比べることも、器量を計ることもないんだ、って。 だから、差を求めた。二人がそれぞれ違う人物なんだっていう証拠。 「―――だからね、」 他人、だから。私たちは他人なのよ。 そう、いけないことなんてない。血が繋がってるわけじゃない。 恋しちゃいけないわけじゃない。―――それでも、 「気持ちは知ってるよ、」 ちゃんと分かってる。日番谷のこと。冬獅朗のこと。「あい」なんて言えるほど私はまだ大人じゃなくて、冬獅朗にその気がないってこともちゃんと分かってる・・・、よ。 日番谷、今どんな顔してるの?私、下向いてるからわかんない。上を向け、って言っても向けられないよ。怖いから。 どうしよう、こんなに、告白の後の間が怖いとは思わなかった。時計がコチリと針を動かすたびに、心臓もビクンと跳ねる。 「・・・俺も」 日番谷が、口を開いた。私は、上を向く。恐る恐る。ちらりと上目で見たら、日番谷が悲しそうな泣きそうな顔してた。俺も、の後には何が続くの?「嫌い?」そう言いたいの?早くハッキリ言って!そうじゃなきゃ、心臓が苦しくて苦しくて、もう一回死んでる私ももう一回死にそう! 「好きだ」 ・・・。ちょっと待ってよ、日番谷。こんな展開、考えて―――いなくはなかったけれど、こんなの・・・。 なんか心臓全部日番谷に掻っ攫われたみたい。心臓の音も、分からない。わたし、まだここにいる? 「日番谷、」 ほんと? そう尋ねると彼は顔を赤くして、りんごみたいに。それで叫ぶみたいに、振り切るみたいに言った。「あぁ!」やけになったみたい。こんなのらしくないよ。もうちょと、私のほうがなんか落ち着いて大人みたいだよ。これじゃ。 「が、好きだ」 日番谷が、言う。あぁ、そんな馬鹿な!って思ったけど、日番谷は真面目な顔をしているし、そんな失礼なこと言えなかった。好きだ、なんて・・・・嘘なんじゃないの。そんなの。言えるわけがないんだ。 私がまた下を向くと、日番谷が顔をあげろ、って。いつの間にか彼は近くにいて、私の顎を片手で掴んでいた。無理矢理、視線を合わせられる。翡翠色の瞳に見せられたみたいに、逃げられない。「だから、」日番谷が、声を発す。もう、それだけで逆上せてしまえそうなほど、私今可笑しい、よ。 「差なんて、わざと作るな」 命令系だった。なんで分かるの。私のこと。・・・、あ、やっぱり彼は大人なんだ、って思った。だから分かっちゃうんだ。私のこと、分からなくてもいいのに。コドモの私の幼稚な考えなんて分からないで欲しいのに。 「んなもん、作ったって仕方ねぇだろ」 「ん・・・」 頭を撫でられる。ほんと、コドモみたいだ、私が。撫でて欲しくないけど、日番谷の手が気持ちいい。・・・・あ。懐かしい匂い。思わず目を閉じる。それから、日番谷がもう一言付け加えて。 「お前、ただでさえ馬鹿なのに差とか考えてどうすんだ」 な、失礼な!反論しようと目を開けたら、そこにはすぐ日番谷の顔があって、あ、そういえば顎を手で押さえられてるんだった、なんて暢気に考えた時にはもう遅かった。 「ん」 熱い唇。開きかけた瞳をまた閉じる。コチコチ、と二回時計の針が動いた音がした後、唇が離れる。ゆっくりと目を開ければ、日番谷が悪戯に成功した子供みたいにニヤリと笑う。冬獅朗の幼稚な罠に嵌ってしまった自分が恥ずかしい。 「冬獅朗のばーか!意地悪小僧!」 日番谷の頭に一発、拳を入れる。「いてっ」日番谷が声を上げる。叩かれたところを擦りながら、日番谷は私を見る。昔の、子供の顔だ。 「良いんだよ、今はまだ」 「見た目子供だから?」 ふふ。と笑いながら言うと「うっせぇ」冬獅朗が顔を少し赤らめて、ほんとに大人っぽいんだかなんだか、訳が分からなくなって、それが変に面白くて・・。まぁ、いっか。なんて思ってしまう自分がいた。 そう笑っている私の隣、冬獅朗は少し優しい顔をして、小さな声で、 「、あいしてる」 |