甘く甘く甘く。それと比例するように口付けは深くなる。

「んぅ、・・・ふ・・・」

目の前の人物の巧みな動きに流されてしまわないように必死にその肩に爪を立てた。浅い呼吸のせいか、濃厚なこの接吻の所為か。脳が、身体が、蕩けてしまいそうなほど熱い。だからといってこのキスを止めるつもりは、私にはないのだから酷い矛盾だ。

くちゅ、と唾液の混じる音がして、それだけでまた身体がカッと熱くなった。

「・・ん・・・っ、は、ぁ・・・」
「・・・、」

やっと離された唇は多くの酸素を求めて、私の肩を揺らした。それを見た彼が私の名前を呼ぶ。優しくて、まるで壊れ物でも扱うように。

「ティ、エ、リア・・・」

熱い。脳がほんとに溶けてしまったのではないかと思うくらいに。何も考えられない。
ティエリアは一瞬、ためらって耳元に唇を近付けた。

「すまない」

一言だけの謝罪。顎を伝った唾液を逆に辿るようにして、下顎から上顎へ。ティエリアの舌が這う。唇にたどり着いたところでまた唇を求められる。

「・・・んん、・・」

唾液の絡む粘っこい音。何度も角度を変えて口付けられる快感。熱のお陰でいつのまにか潤った目から零れた滴が冷たい。
キスをされてる。その感覚が嬉しい。
唇が離れるのが悲しくなるくらいに、嬉しい。

「は・・っ」
「本当に、すまない」

眼鏡を外しているからか、いつもよりくっきりとした綺麗な顔が見える。赤い瞳がすごく綺麗で、艶っぽい。
離された唇がそのまま下に流れるようにして、項でとまる。そして、そこを一舐めされる。ザラリとした舌が背中を粟立たせた。

「あ、やめ・・・」
「すまない」

さっきから謝ってしかいないよ。ティエリア。
言おうとした言葉は飲み下されて、喘ぎ声に代わる。
きつく項を吸われる。何度も、なんども。

「・・・、いっ・・・・」

そのまま下降する唇と手に、これから何をされるかというのは安易に想像できる。
それでも拒みたくない。

「ティエ、リア」

「好き、」


***



目を覚ますと、所々に痕跡の残る私の身体に白い布団がかけられていた。なんとなく肌寒いのは、私が何も身に着けていないから。そして何時もは暖かいようにとかけられているベッドのシーツが剥ぎ取られているからだ。

「ティエリア・・・?」

シーツに潜りこんだまま、真っ暗い部屋の中で手を伸ばす。すぐ左隣に感じた、暖かい熱にほっとする。
昨日の行為の激しさを語る痛みを腰の方に感じながら、上半身を起こす。
暗闇に慣れてきた目が、ティエリアの顔を捉える。

「よか、った・・・・」

起こさないように、とそっと頬に掛かる髪を退ける。さらり、と指をすり抜ける綺麗な髪。普段から綺麗な顔立ちをしているけれども、寝ている顔というのは余計に綺麗に思える。
昨日のことは正直あまりよく覚えていない。覚えているといえば、身体に触れた自分とは違う体温、甘い快楽に痺れた肢体、自分の中に入り込んできた熱い熱。そして何度も私の上から呟かれる謝罪の声。

謝るティエリアの顔が、どんなのだったか、全く覚えていない。それが少し、悲しい。
なんで覚えていなかったんだろう。また、ティエリアの髪を撫でる。顔を近付けて、額に子供だましみたいなキスを一つ落とす。
ふふ、と笑ってもう一度頭を撫でようと左手を伸ばした時、手首を何か―――白い、腕、につかまれた。

「え、」

そのまま引っぱられて、案の定、腕の主の上に倒れこみそうになる。が、そこは空いていた右手で倒れないように身体を支えた。
私の下にいるティエリアは私の左手をつかんだまま、じっと私の目を見ている。

「・・・おきてたの」
「君が、独り言をしていた時から」

独り言なんて。あれだけの音で起きてしまうなんてなんて繊細なんだろう。

「ごめん。邪魔しちゃったね」
「構わない」
「ごめん・・・」
「・・・僕のほうこそ、すまなかった」
「昨晩のことは・・・、すまない」
「ティエリア・・・」

どうして泣きそうな顔するの。辛くなるでしょう、なんて言えなかった。どうしても、なぜかそれが言い出せなくて、代わりにティエリアの唇を塞いだ。

「ん、?!」

吃驚したのか、口が空いていたので調子に乗って舌を絡めてみた。ティエリアは最初こそ戸惑いっていたけれども、その器用な舌で私を導いてしまう。

「っふ、・・ん・・・ッ」

擬似とはいえ、重力のある空間。それに液体が逆らうことはなく、ティエリアの口元を混じった唾液が伝う。
その色っぽさがなんだか腹立たしくて、私は唇を離すと、枕に顔面から埋まった。

「・・・・どうした」

仕掛けてきたのはそっちだろう、と言うようにしてティエリアが私に囁く。耳元で低く響くその声が、また艶っぽい。
熱い顔のまま、ティエリアの方を向くと、不意打ちで唇にキスされた。

「っ!?」
「お相子だ」

ティエリアは布団の下から身体を起こすと、私の髪に触れてきた。それは私が先ほどティエリアの髪を撫でたのと同じように、優しく。
薄暗い中でもハッキリと見える、ティエリアは綺麗で、――締まった身体とか、腕以上に白い肌とか。まるで女の人みたいに艶がある。

「・・・反則よ」
「何とでも言えばいい」

布団を被って赤い顔を隠そうとするけれど、そうしたらティエリアがクスって笑うものだから。なんだか馬鹿馬鹿しくなって。
私の頭の上にある右手の平にキスをした。

「・・・『懇願』、って、フランツ・グリルパルツァーの接吻の、」
「・・・何を?」
「ティエ、リア、を」

沈黙。ティエリアは眼を少し見開いて、それから唇をゆっくり開いた。

「・・・後々になって後悔しないか」
「するわけないでしょう」

私は小さく笑った、はず。ティエリアが強張った顔を、少しだけ柔らかくしたから。
それをじっと見つめながら、私は再度口を開いた。

「だから、そんなに謝らないで」
「ティエリアだから許せるの」

言い終わった瞬間、ティエリアはふっと、何時もみたいに笑った。

「全く君は・・・・」

そう言うと、ティエリアは身体を起こして私の上に跨ってきた。

「手は抜かない」
「・・・ん、ちょっと手加減してくれたら、な」
「拒否する」
「ですよね・・・っ、ん」

唇が降りてきて、そっと、私の唇と重なったかと思うと、性急に舌をねじ込められた。やっぱり、甘い。ミルクチョコレートみたいに、熱で、ティエリアの熱で溶かされてしまいそう。
私からも舌を絡めるようにして近づくと、ティエリアは私の両頬を手で包むようにしてきた。
息が出来なくなるほど密着して、その度に私はティエリアを感じた。

「・・ふ・・・ッ」
「・・・・むぅ、ん、んんっ・・」

キスに夢中で、私は息が出来なくなる時間も分からなくなっていた。それほど、甘くて熱い接吻。
このままティエリアと唇を合わせたままなら、窒息死っていう間抜けな死に方でも構わないかもしれない。とふと思った瞬間に唇を話された。

「は、ぁ、ティエ、」
「すまない」

今日、何度目の謝罪だろう。
ぼうっとした頭の中で、その言葉はふっと消える。
息を荒くしたまま、ティエリアの髪を撫ぜる。
―――あぁ、私はこの人が好きだ―――。
唇に感情を乗せて、話す。

「・・・・謝らないで、って」
「分かっている」

ティエリアは不敵に笑って、でもその後、すぐにその顔を崩して――、すごく優しい眼差しを私に向けた。
唇を耳元に近付けられて、囁かれる。私は、生ぬるい吐息を感じながらそっと目を閉じた。

「・・・有難う、私も好き、よ」

そう言った瞬間、今まで私が見た中で一番優しい目をしたティエリアにまた口付けられてしまった。



MARIA

(この世でたった一人、だけ)