「アリス、さん・・?」

何処にもいない。彼女が、いない。
先程まで、ほんの一、二時間帯変わるまでは、昼が夜になって、夕方になって、また昼になって、そうやって時間が変わった。そう、さっきまで。

「アリスさん」

彼女はいたのだ、此処に。私の隣で。
私の隣で笑っていた。



顔なして、役なしの私に名前を与えてくれた人。
大事な人。この世界に必要な人。

「アリスさんっ」

その彼女がいない。私が目を閉じて、眠っている間。ほんの少しの、間。
その時間の間に彼女がいなくなってしまった。

「アリスさん!アリスさん!!」

声を荒げても、彼女は出てきてくれない。
いつもならふっと現れて、兄さんやペーター様や・・・、他の役持ちの方と一緒にいて、仲良く笑ってお話しているのに。
ひんやり、彼女のいた空気が私の肌に触れる。
もういない。そう私に言い聞かせるように、納得させるように、寂しく。

「いやだよ・・・!」

アリスさん。
ペーター様は、アリスさんが幸せになれば良いって。
だから此処につれてきた。此処にいれば、アリスさんは幸せなんでしょう?
なのに、なんでアリスさんは今いないの?
私の大好きな、アリスさんは幸せじゃなかったの?

「アリスさん・・っ」

私のいた薔薇園は、アリスさんがいないのに悲しそうにもしない。
真っ赤で、綺麗で、まるで血みたいな――実際、血なのかもしれない。
役なしの血を存分に吸って生きる、真紅の薔薇。
女王様はそれが好きで、アリスさんもそれが嫌いではないらしい。
綺麗な薔薇。アリスさんが笑いかけていた薔薇。

「どうして、帰っちゃったの・・・?」

幸せをどうして棄てるの?どうして、幸せを望まないの?
どうして真実を求めるの?良い真実でなくても、望んでしまうの?
昼が、夜に変わる。一気に、滅多に吹かない風が冷たくなって肌を打つ。
時計は進むもの。私達は、私は、アリスさんとは違う。違う。
時間で、私はその数秒のうちの一人。

「・・・・アリス、さん・・・」


REAL MATTER
(世界の中心が欠けた、世界の終わりみたい)


時計は進む。アリスさんがいなくても、この世界は正常に、狂って動き出す。