「ねぇ、バジル」

私は隣にいる彼に問いかける。

「なんでしょう、殿」

バジルの変な喋り方にももう慣れた。殿、っていつの時代の言葉だか、知ってて本当に喋っているのだろうか。
私は口元を緩ませた。ふふ、と声が漏れる。

「?殿?」

バジルが聞く。彼はこんな世界にいるべき子ではない。私の傍でもなければ、黒い世界でもない、ましてや、今のような―――

「白い、世界」

此処にもいるべきではない。薬液の匂いで溢れたこんな世界。バジルには色の溢れた世界が、よく合うというのに。

殿・・・」

哀しい声で、バジルは聞く。私はただ目を細めて、遠くを見る。見えたのは赤い薔薇の花。それから家族の写真。父と母と、姉の三人が載った写真。懐かしい。そういえば、もう久しく会っていないな。


「ねぇ、バジル」

私はもう一度、言葉を発す。バジルは哀しそうな顔をして、私を見ている。青い瞳が綺麗に光っている。宝石みたいに、綺麗。

「私は、いつ此処から出られるのかしらね?」

誰を責めているわけではない。病気は運命と共に、必然的なものだ。誰かを憎むことなんて出来ない。私は腕をバジルに伸ばす。それをバジルは取ると、ぎゅっと手を握られた。暖かい。優しい手。その手で誰かを殺しているの?――罪な手ね。
バジルは言葉を発さない。ただ、私の手を握って、何かを懇願するように、目を閉じている。まるで、いもしない神に縋るように。哀しく。

「・・・・ありがとう、バジル」

ゆっくり目を閉じる。


白世界
(おやすみなさい。次会う時間はいつか分からないけれど。)